コース要綱

2017西洋政治思想史基礎研究Fundamental Studies in the History of Western Political Thought

[講義基本情報]

教員: 加藤哲理 KATO Tetsuri
その他の教員:
科目種別: 講義 Lecture
開講時期: 前期 1st semester
対象年次:
開講時限: 火1,2 Tuesday 1/2
単位数: 4
必修の有無:
教室: アジア法交流館レクチャールーム1

 

講義概要

二十世紀の西洋政治思想史の流れを概観することによって、私たちが生きている現在が、いかなる過去から生じてきたものかを追想するとともに、そのことを通して、私たちがいかなる問いを自らのものとして継承し、未来へと歩んでいくべきかを模索していきます。

二十世紀とは〈西洋近代〉がその頂点を迎えるとともに、やがてその限界が露わになるにつれて、それを克服するための思想的挑戦が様々になされていった時代でもあります。そもそも〈東洋〉の片隅にある一大学に偶然に設置されているに過ぎない本講義が、そのような〈西洋〉の思想史を〈いま・ここ〉において振り返ることに一体どんな意味があるのか、問うべきこと自体を何度も発見しなおしながら、講義を進めていければと思います。

そのつど与えられた状況の中で〈西洋近代〉が抱える多種多様な問題と対峙することで形作られていった数々の思想家たちの足跡を、丹念に辿っていきながら、私たちの存在の尺度が限りなく不透明になってしまった時代の中にあって、自らが進むべき道を照らしてくれる微かな光の痕跡に静かに耳を傾けていくことにしましょう。

In this lecture, we will overview the twentieth century history of Western political thought.

到達目標 思想史の学習において目標とされるのは、何らかの体系的な情報や知識を獲得することでも、模範的な解答に確実に辿り着けるような方法を習得することでも、厄介な現実を巧みに操作し遮蔽することのできる分析手法や理論枠組みに精通することでもありません。

〈思想史〉という学問は、無限に広がる過去と未来の〈歴史〉の間で、ほんのわずかに存在する現在という場所のみを与えられ、絶えず〈思想〉しながら自らの生きる意味を問い続けることを宿命づけられている人間存在が、その自らの本質を自覚的に引き受けつつ歩んでいくことを決意するときに生まれてくる一つのエートス(=人生態度)なのです。ですから本講義の目標は、そのような生き方としての〈思想史〉を身につけることにあります。

そのためには、まずは先のような勉強の集積では全く歯が立たないような根本的な問題が脚下に潜在しているのに気づくこと、自己の存在全体が自己にとって謎となるような地点に立つことが必要とされます。またさらにそこから、長いながい歴史と時間の流れの中でしか答えが恵まれてくることのないような、そのような根源的な問いを日常の中で見失うことなく背負い続けていく思考習慣を血肉化することが求められます。

〈いかにして〉という問いだけが蔓延していく現代世界の真っただ中にありながら、同時にその背後に常に〈なぜ〉や〈なんのために〉、〈どこから/どこへ〉という問いが伏在していることを忘却することのないような、自らの生きる現在に対する慎ましやかな態度を身につけること、〈なぜ〉という問いが消失するまで〈なぜ〉という問いと苦心惨憺して格闘しなければならない、この広大な宇宙の中で不可思議にも人間だけが授かることになった、そのような〈いのち〉のあり方を責任をもって全うしていくための第一歩を踏み出すこと、

そのような果てしない自己究明の道への目覚めこそが、本講義の範囲を究極的には超えたところから由来している本講義の存在根拠であり到達目標なのです。
教科書 こちらからレジュメを配布いたしますが、そこで語られる言葉を真に活きたものとするのは私たち自身の心の創造的な働きです。それを忘れてしまえば、すべての言葉は自分や他人を惑わすか、あるいは眠りに誘うだけの死物となってしまうことを注意しながら一緒に講義を生み出していきましょう。
参考書・参考資料 特にありませんが、森羅万象からなる日常そのものが皆さんに教えを説いている参考書であるということを忘れないでください。

容易に情報や知識を手に入れることができるツールが巷ではますます溢れかえっていますが、氾濫する膨大な記号の喧騒の中から自分が素朴に問うべきことを教えてくれるような真の参考書は実は、紙面上でも画面上でもなく、日ごろ疎かにされがちな自分の心のうちに静かに眠っているのかもしれません。文明の利器に囲まれずとも、書架に厳めしい本が一冊もなくとも、この身一つさえあれば、いつでもどこでも堂々と学問しながら生死を歩んでいくことができる、そういう境地をぜひ養っていってください。
成績評価方法 学期末の試験によって成績評価を行ないます(講義の内容を自己の問題として引き受け、それに主体的に参与していたかを見定めるものになります)。試験に出席しなかった方は欠席扱いになります。

いわゆる予習や復習の類は要求されません。講義の中で皆さん自身のなかに思い浮かんできた問いを講義室の外でも大切に育んでいっていただければ、それで十分です。私たち人間が取りかえのきかない存在としてその可能性を真に発露していくためには、独りひとりにしか背負うことのできない問いとそのつど真摯に対決し続けた経験が要求されることを、どうかお忘れなく。

内容の性質上、本講義の成績は講義という限られた時空間で定められるべきものでもないし、本来ならば皆さん以外の誰かが数値化して評価を下すべきものでもないのですが、さしあたって試験では皆さん自身の存在の瞬きが行間からにじみ出てくるような解答を期待しています。一つ問いに切実にぶつかるごとに、また一つ自らの実存が深まっていく、そういう体験からのみ生じる真の喜びを答案に表現していただければ幸いです。
履修条件 特にありません。

本講義を受講するのに、頭の回転の速さや難解な知識の集積、世界を自己実現の手段に貶めるだけのロジカルシンキング(とやら)、現代社会に対する借り物の「学問的」問題意識、自分を守る方便にしかならないような斜に構えた中途半端な「批判的」思考などなどは、一切必要ありません(むしろ自分の脚下にあるものを素朴かつ大胆に問いかけていくためには、そうした装飾品の輝きに目を奪われたり、理論や学問という鎧で身を固めたりすることは邪魔にしかならないことの方が多いのです)。

自己を偽らず徹底的に見つめていこうとする真摯さや誠実さと、他者とともに生きることに不可避にともなう苦しみや痛みを全身全霊で受けとめる感性や想像力と、この人間ならば誰でももっているはずでありながら、徒らにこの世で年月を過ごし、無為に業を積み重ねているうちに往々にして錆びついてしまいがちな能力を、少しばかりは働かせることができ、さらにその鏡に磨きをかけたいという気持ちがわずかにでもあるならばそれだけで十分です。
その他の注意 思想や哲学というと、珍奇な嗜好をもった人々だけが行う無用で趣味的な営みのように考えがちですが、実際にはそれは単純素朴なもので、ただ己自身の人生や存在を自覚的に問い、徹底的に掘り下げることを続けていく無限の試みに過ぎません。

このような活動としての思想は、人間であれば誰しもが陰に陽に日常の中で行っていることであり、それを向き不向きの問題として片づけたり、適当な理由をつけて回避しようとすること自体が、結局はまた自らの現在の境地からなされる一つの思想上の態度の帰結である以上、人間として生を受けたということは、幸か不幸か考え続けることを運命づけられているということでもあります。

本質的に人間存在が、そうして生きている限り、際限のない疑問や懐疑の荒波に翻弄され続け、それに付随する数限りない苦しみや悲しみから逃げることができない唯一の生き物である以上、思想や哲学をするということは、その重荷を正面から背負いつつ、人間がより人間らしく生きていくための道を、一人ひとりがその限られた人生の中で、共同的に探究していくことに他ならないのです。

この講義を通して、皆さんがこれまで以上に自分自身の存在の根拠を深く究明していくことができるとともに、そのような探求の生涯の伴侶となりうるような思想家たちやその言葉と出会えることを心より願っております。

真実かつ素朴に生きていくことを心の底では願い求めながら、そのためにも一生を超えてまで徹底的に悩み、迷い苦しみ抜かなくてはならない、このような宿業的な矛盾へと磔にされた人間存在がたまらなく悲しく、同時に愛しい、そんな優しい心をもったあなたの講義へのご参加をいつでもお待ちしております。

 

テーマ 講義内容 授業時間外の学修活動 関連ページ
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